名前がなくなるカテゴリー化

1.◯◯なので

 配属されて数10分後、「あなた訛ってるけど中国人?」「中国人のバイトの子がいるんだけど国民性だと思うけど本当に話しかけてくるから気をつけて」と言われた。ミックスルーツの同期が「セクハラと差別発言やばいからやめる」と言い残して入社数ヶ月で辞めた。そんな「中国人のバイトの子」は休憩室で陰で「高次脳機能障害って知ってます?あの人多分それなんですよ」「へえいつも勉強になるなあ」と言われ、飲み会で店長や別の社員に陰で「発達障害とか脳の病気なんだと思う、でも困るなあ」「そうですよねえあれは」と言われ、クビされた半年以上後でさえ、「顔が怪獣」「バカチョー」などとフロア長に言われていた。

 そんなある日、朝礼で、「営業会議資料を各階のレジに置いておいたから読んでおくように」と店長が話した。上期の方針についての会議のレジメ。今後の担当者が一行ずつ列挙してあった。色々の方針や配属や担当が書いてあって最後に、こう記載されていた。

EC施策◯◯さん

VMD施策◯◯さん

インバウンド施策◯◯さん(在日)

 何もいうまでもなく、相当どうかしている。どうせ全て証拠とやらありきなのだから、写真を撮っておけば良かった(というかどうして差別やいじめに対応するときだけ、「物的証拠をこの目で見てない情報は一切信じることができず、話をできない」というスタンスになるのか)。

 差別性を列挙すると却って針小棒大に感じられてしまうかもしれないが、とにかく何重にも「ヤバイ」。そもそも本人の了承を得ずに個人情報を曝露することはパワーハラスメント(森山、2023)であるが、それ以上の差別性がパッと見で凄まじい。これを伝えた外部の人はみな文字通り絶句していた。

  • ルーツ/人種/エスニシティを根拠に(あるいはルーツ/人種/エスニシティに紐付けながら)社員をある役割に割り当てる
  • しかもそれが、会社の重役たちが集まった、社内で最も大きくてオフィシャルな議事である
  • そして、その人のルーツ/人種/エスニシティだけわざわざ括弧書きしている
  • そして、その人ルーツ/人種/エスニシティを勝手に詳らかにしている
  • そして、それがその人の/特定の苗字と並列に書いてある
  • そして「在日」という言い方である
  • しかもそれが、陰口などでさえなく、プリントされた社内資料である
  • あまつさえ、「みんな読んでおくように」という指示のもと、各店舗各レジ内に置かれている

 

2.意図より効果

 差別的な意図を持たずに行った行為でも、差別的な効果をもたらすのであれば、それは差別(貴堂、2023)だ。意図を伝えてわざわざ暴言を重ねていくより、相手に与えた影響を、黙って遮らずに聴くことだ。

 二枚舌を複雑に絡め合うだけの汚いキスに満ちた空間でいじめを繰り返しても、会社の業績も私たちの心も一生回復しない。

 

 

【参考・引用】

貴堂嘉之(監修)・一橋大学社会学部貴堂ゼミ生・院ゼミ生有志(著) (2023) 大学生がレイシズムに向き合って考えてみたー差別の「いまを読み解くための入門書」ー

森山至貴(2023). 10代から知っておきたい女性を閉じこめる「ずるい言葉」WAVE出版