急いでからかって

 アパレル企業では、色んな社員が色んなお客(や若い社員たち)の悪口を言うことが習慣化していた。社訓は、「人間性」だった。体型の大きなお客様の場合は、「見てハンプティダンプティが来てる、横通らないようにしよ」「つのだひろみたいだったね笑」(大きなサイズ日本一を目標にしてる会社)。外国人と思った方の場合は(必ず「外人」と呼び、)「本当は日本語話せるくせに」「何人なんだろ」「黒人のお客様来るから対応しておいて」。いつも長時間過ごされる方の場合、「あのお客さん友達いない寂しい人だから気が向いたら対応してあげてね」。ある日、セットアップが好きな方が来店されて、お洋服の話で盛り上がりつつ、接客をしていた。接客後、遠くにいた上司が、「こだわりがあるのはいいけど、ぶつくさ言うくせにあの人臭くなかった?」「髪の毛が湿っててお風呂入ってなさそうだよ」などと笑いを誘ってきた。入り口のディスプレイに、「BODY POSITIVE!」という言葉が映ってる。

 数日後には、「さっきのあの◯◯って客、ホモらしいよ」「うーわ、やっぱり。2丁目とか言ってるクチですか?」「おう、気をつけろよ。買いに来てくれるのはいいけどさっさと帰ればいいのに」「ですねえ。金は持ってるみたいですけどええ」。事務所で大声で話す中高年男性社員たち。

 よくあるクリシェのように、”特に意図はなく、別に本当のことを言っただけ”なのだろうか。なら彼らは、いちいち「雲白い!」「眉毛生えてる!」「ペンが棒状だ!」「眼鏡を掛けるとよく見える!」「机って物が置ける!」などといちいち言いながら暮らすの?

 本当のことだから言っているわけではない。そこに、特定の他者性への嫌悪感がある。すなわち差別心だ。ヘイトという言葉は、大嫌いという意味ではない。悪意に満ちた差別心と強かな排外。たとえ、何らかの他者性が「嫌悪感を抱き、ジャッジし、笑い、避け」たくなるかたちで現れたとしても、その刺激にそんな反応をしてしまう間にあるのは、差別心という変数だ。意図がある。