あたたかい

 ある芸人ライブで、何人ものおじさんが入れ替わり立ち替わり、「非モテルサンチマン漫談」を披露していた。エッジの効いた尖ったことを言ってるつもりになってめちゃくちゃよくある話法をしていることに辟易としながら、文字通り閉口した。人一倍尖ってるつもりで人一倍丸い。そのような芸人像をセルフパロディしてるというジョークなのかと思ったけれど「ガチ」だった。

 お笑い芸人や、ひいてはインターネットや日常会話のトークでは、些末なことに個人に責任・原因・意志を帰属した上でコミカルに怒って、溜飲を下げる。そうして、社会にある規範それ自体に目を向けることは「サムい」「スベってる」「イタイ」「ヘタレ」がすることだから、「引く」。

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 規範を疑問視することはなく、むしろそれへの適応を生きがいにして、その営みから浮いている「弱者」を叩く。お笑い芸人やレベル・ミュージックをするミュージシャンのハラスメントの多さ。男性中心主義の多さ。構造は不可侵なものとした上で個人攻撃をし合うって明日への英気を養う。そんな話法が職場の愚痴や飲み会トークへ敷衍されてく。上から下への抵抗、と横の横の個人的なからかいが残る。 

 相手をカテゴリー化して笑う。そのようなコミュニケーション(もといイジメ)は、幼児退行の気持ちよさにまみれながら針小棒大な観点で物事を捉える話法であり、相手が構造に目を向ける時間と力をも奪う。