その部屋出て老けようー学び落としー

1.露悪をがまんできない部屋

 性的に何も引っかからずに成長した人は考える機会がなく、男の子として制約なく育ち、女の子を好きになり、適当に遊んで結婚する(三橋、2023)。40過ぎの男性社員が休憩室で他のおじさんたちに、当人のいない場で突然19歳の女子社員を「ブス」「顔が汚い」と言い、「そう思うだろ?」と私に迫る。そして、「俺の言葉はこんなもんじゃないんだぞ〜、飲み会行くともっとすごいんだから」と嬉々として私に言い、おじさんたちに「な?な?」と言う。他のおじさんも、影でフロアで彼の同僚や私に「あいつのことビンタしようかな?今度」と執拗に言う。ストレスで体を壊してやめた同期が言っていたように、また、会社の人間たちの問題含みの言動に号泣していた同期が言っていたように、「セクハラと差別発言がひどすぎる」。

 このような、女性(的なもの)をけんめいに蔑視・後景化し合うホモソーシャルではものを一切考えてはいけないので、「結果の根拠化」が起こり続ける。つまり、「オレたちはこういう風にいじめるんだよ。だってオレたちはこういう風にいじめてきたから。じゃなきゃどうにかなっちゃうもん」。同語反復だけをすることで加齢をしていく。

 たとえば近年、性交同意年齢や選択的夫婦別姓などがまた改めて俎上に載せられる。法は真空のなかではなく、つねにすでにそのときの社会の相互作用のなかである種の恣意性とともに制定・行使される。そのため、現代の社会規範や倫理と呼応しない法規範が散見される。その際、聖書無謬説よろしく「法律無謬説」に依拠して法の無誤性を唱えるのではなく、可謬主義的に逸脱を是正する(そのようなクリティカルな視座で法をそして社会を認識することにこそ、法律学を学ぶことの意義がある)。法ひいてはあらゆる明文はすなわち「明文化された規範」であり、規範やそれに基づいた制度は、縦断的・横断的に異なるものである。にもかかわらず、さまざまな物事が「今こうなっているからこれからもこうなっていくんだよ」という居直りの上で、「伝統だから伝統にしていくんだよ」というトートロジーで伝統にされていく。

 社会運動は、恵まれない立場や弱い立場を是正したり救ったりするのみならず、古い価値観を壊し、新しい価値を作ることを目的とする(富永、2019)。不安と緊張に裏打ちされて奇妙に興奮しながら冗談を言って小粋なトークをした気になるのなんてやめて、素直に。コーピングやケアをしつつ、呪いの言葉を解いたり学び落としをしたりてく。私的な空間から、新しい価値を作る運動は始まる。

 

2.ACTという心理療法

 よく、「暇だから悩むんだよ」「体力が余ってるから悩むんだよ」とか言う。けど、忙しいなか悩むことだった全然ある。それに、心身の体力がなくなるまで悩んで、心身の体力がなくなってからでもえんえんと悩むからこそ、相当に病むときがあるんだ。そして、生活ができなくなる。あるいは、無理して生活を送る。それで体力が及第点くらいまで来たら、またえんえんと悩み始める。そんな0とマイナスを往復する運用で、元気なときがあるわけがない。自分の疲れや感情を認めたり、相手のそれらを認めたりすることの大切さを思う。

 ACT(アクセプタンス &コミットメント・セラピー)という、認知行動療法の1つがある。従来の人行動療法は、第三世代の認知/行動療法がある。これは、「マインドフルで、かつ、価値に導かれたアクション」をできるようになることを目的にした心理療法だ。この療法の考え方は、その人がどんな行動をするかということ自体は問題視されない。たとえば予定を断ったとしても、逆に会いに行ったとしても、それがその人の価値にコミットされた行為(価値に導かれた/動機づけられた効果的な行動:ハリス、2024)かどうかが大事だとされる。このような「価値に向かっているかどうか」という有効性(workability)を重視するのだ。

 ACTでは、「好ましくない不快な私的経験(思考、感情、記憶、イメージ、情動、衝動、欲求、願望、感覚など他の人にはわからない体験)の回避や排除に時間・エネルギーを費やすほど、長期的には心理的に苦しむ可能性が高まる」と考える(ハリス、2024)。そして、私的体験を受け止めて(アクセプタンスして)、価値に導かれたアクションを起こし、なりたい自分になるように振る舞うことに主眼がある。だから、エーシーティーではなくアクト(act)と読む。

 自分の感情や思ってしまうことを受け止めた上で、自分にとって大事なことへ向かう。露悪と虚勢と、はぐらかしと冗談が、あなたにとってそれですか?やっぱり、気の抜けたあの面持ちがいい感じ。

 

【引用・参考】

三橋順子(2023). これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリティ論入門 辰巳出版

ラス・ハリス(2024)・武藤崇・嶋大樹・坂野朝子(監訳)・武藤崇・嶋大樹・川島寛子(訳) よくわかるACTー明日から使えるACT入門ー<改訂第2版> 星和書店

富永京子(2019). みんなの「わがまま」入門 左右社